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2013年05月19日(日)14時から、東京都港区白金台にある明治学院大学にて、「シリアの集い『シリアの過去と今を考える』」が行われた。昨年の衆議院選挙後、自民党が大きく議席を伸ばし、民主党政権から自民党主導へ政権が変わり、外交政策、外交方針にも変更があった。日本のシリア支援に対する考え方に矛盾が見えつつある。
現在、政府のシリア支援の方針は「国内支援をしていく」というものだが、在日本シリア大使館は機能しておらず、邦人スタッフは撤収。ヨルダン日本大使館が、その役割を担っている。この状況から日本政府が指す「国内支援」とは、資金援助・食糧支援程度しか考えられず、邦人スタッフが直接現地に行くことは考えられていない。
■内容 「サダーカの使命、やるべきことについて」田村雅文氏(サダーカ代表)、藤井沙織氏(サダーカ)ほか。「これまでのサダーカの活動について」田村雅文氏、藤井沙織氏ほか。「今後のサダーカの活動について/学生による基礎情報説明、シリア国内の声紹介、世界同時アクションChange Org(署名運動をStop Killingにつなげる)、NGO有識者との連携会議について」。質疑応答。総合司会 平山恵氏(明治学院大学国際学部 准教授)
■主催 シリア支援団体サダーカ(詳細)
冒頭、司会進行役の平山恵氏が集会の要旨を述べたあと、サダーカ代表の田村雅文氏が「サダーカは、2012年3月に立ち上げた。世界中にシリアの現状を伝え、専門家やNGOなどと連携し、シリア紛争終結を目指す。また、関係組織にプレッシャーをかけ、コーディネーター役を務め、国連・アラブ連盟合同特別代表ブラヒミ氏にも働きかけを行なっている」と、サダーカの役割を説明した。
さらに、これまでの活動を紹介し、「等身大のシリアを伝える、というテーマで、ポストカード配布や、特産品のチャリティバーゲンを行なった。また、現地に赴き、市民の声を聞いて映像にまとめた」と話し、その映像を上映した。田村氏は、難民の家庭を訪問して見聞きした、彼らの生活について、「親戚や知り合いを頼って国内を転々とし、逃げる場がなくなると、ヨルダンやレバノンへ出国する。ヨルダン、レバノンで50万人、トルコ、イランには20万人くらいの難民がいる。ザァタリ難民キャンプなどでは、劣悪な環境に耐えられず、10万円弱を払ってでも、逃げる人たちがいる」と話した。
続いて田村氏は、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)への登録について話した。「国内2~3カ所で可能だが、申請許可が下りるまでに、6カ月かかる場合もある。食事クーポンは供与されるが、購入できる市場まで行く交通費もない場合がある。そして登録証がないと、医療支援が受けられない」と説明した。
さらに、「紛争による避難が長期化していることで、家賃や交通費が払えなくなっている。親戚などもサポートし続けられない。雇用も限られるので、生活が安定しない。コネ社会で仕事が少ない。そして、子どもたちは、教育が受けらない。ヨルダン政府の教育政策は、まだ充実しているが、地域によってはスクールバス代が払えない。また、申請書類を揃えるのが難しいなどの問題がある」と、難民たちの困難な状況を語った。
田村氏は「シリアでは、18歳以上の男子には兵役義務があり、5000USドルを払えば免除される。ヨルダンに逃げている青年たちが、パスポート延長を申請をすると、『兵役につけ』と強制送還されるか、拒否すると家族が迫害される可能性がある。また、子どもたちへの精神的影響やトラウマも懸念される」などと、具体的に報告した。
後半、青山弘之氏(東京外国語大学大学院教授)の著作『混迷するシリア』(岩波書店2012年刊)を取り上げ、シリアの独裁者、バッシャール・アサド政権が、なぜ、政権を維持し続け、民主化が成功しないのか、について考察した。「アサド政権には、3つの独裁形態がある。アサド大統領自身によるもの、アサド家と親族によるもの。そして、アラウィー派による宗派独裁だ。シリアは、スンナ派、アラウィー派、キリスト教と多様国家であるが、現在はアサド・ファミリーとアラウィー派が実権を握っている状態だ。その権力構造は、名目的権力装置としては、三権分立・治法国家の表の面がある。そして、隠された権力、真の権力装置として、ムハーバラート(秘密警察)、軍、バアス党によって担われている、裏の面がある」と説明した。
また、旧政権と現政権の違いなどを説明し、「はたして独裁政治なのか。なぜ、紛糾が長引いているのか。なぜ、破壊活動が激化するのか」と考察。パレスチナ、イスラエルなどの東アラブにおける地政学的な立ち位置、反体制派の群雄割拠の実情、アラブの春の影響とその革命の変容、国連安保理事会の対応などをレポートした。
最後に、「シリア反体制運動は、当初、アサド政権の瓦解、民主化体制の確立を目指していたのだが、長期化から軍事化し、内戦状態になってしまった。そこで新たに2つの問題が浮上した。ひとつが、米国主導で、反体制派の大同団結とシリア国内唯一の正当な代表としての承認。しかし、シリア国内組織からの反発で拒否された。もうひとつは、外国人戦闘員の流入と破壊活動だ」と解説した。
田村氏が、ふたたび登壇し、シリアで聞いた市民の声を2つ紹介した。「大変な暮らしになったが、死ぬ時にはどんな時でも死んでしまうから、普通に暮らしている」「毎朝、爆発音で起きる。今日も朝8時に、家の近くで車が爆発した。でも、すぐに父は仕事に行き、妹も大学に行く。目の前で何かが爆発することは、普通のことになったのかもしれない」。
そして、平山氏が「もっとも困難な部分は、口外できないこと。まさか、ここに秘密警察はいないと思うが、反体制者やその家族への弾圧があるので、現地の声を外に伝えることがとても難しい」と実情を語った。田村氏は、現在、SNSなどで展開しているStop Killing in Syriaキャンペーンを紹介した。【IWJテキストスタッフ・関根/奥松】
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